2016年12月22日

琥珀の夢(170)小樽へ

出航の朝、信治郎はホテルから家族に絵葉書を出した。小樽まで仕入先の見分に行って参ります、と書かれたはがきを見て、驚いた母のこまが喜蔵を呼んだ。

「信はん、小樽へ行くそうやで」
「小樽って、あの北海道の小樽でっか?」


喜蔵も初耳の話だった。絵葉書には豪華客船の写真が印刷してあった。まさかこの船に乗って小樽へ、というこまに、それは無理だと喜蔵は言った。

こんな豪勢な船に信治郎が乗れるはずがないと聞いて、こまは安心した。しかし喜蔵は気がついていた。

写真の客船「三池丸」の一等デッキでシャンパン片手に海を眺めている男は、たしかに信治郎だった。




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2016年07月31日

琥珀の夢(29)信治郎、奉公へ

忠兵衛が妻のこまに信治郎の奉公先を伝えると、こまは反対はしなかったが気のない返事をした。忠兵衛は明日から信治郎を奉公先にやると伝えた。

こまは、せめて肌着やらでも支度が必要だと訴えたが、忠兵衛は「今のままでかまわん。あれは奉公に出るんやぞ」と、理由もわからず誤気を荒げた。


こまは、奉公先に行く日は自分が連れて行くと申し出、忠兵衛は了承した。信治郎はさっさと商業学校を退学して来て、明日にでも奉公に出ると忠兵衛に告げた。

忠兵衛は母が準備が必要だと言っていたことを伝えた。信治郎は何の準備かわからず、小首をかしげながら奥に退いた。


3日後、信治郎とこまは道修町の小西儀助商店に向かった。「まあ奉公先をよう見てみんとな」こまの言葉の意味が信治郎にはわからなかった。

「そりゃ外から見るんと、中から見るんではお店言うもんはまるで違いますから」と言われて、13歳の信治郎は母と並んで小西儀助商店の前に立った。


(ひとこと)
奉公に出て新しい世界を見るのが楽しみでたまらない信治郎、寂しさを振り切ろうとする忠兵衛、息子の行く末を案じるこま。三者三様の姿ですね。


posted by 琥珀色 at 09:20| 琥珀の夢 家族 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月26日

琥珀の夢(25)一斗の米

当時の学校は規模が小さかったので、校舎もどこかの古い建物を借り受けたものが大半だった。雨漏りも度々のことで、小使い(用務員)の仕事は忙しかった。

その頃両替商から米穀商に商売替えをしていた忠兵衛は、どこで聞きつけたのか、信治郎が通う小学校の小使いが生活に困っていることを知って、米を一斗、小使いに届けるように信治郎に命じた。


米一斗といえば十升。重さは15キロほどある。しかし9歳の信治郎の体力は同い年の子どもたちに比べて抜きん出ていたので、その仕事を難なく引き受けた。

米袋を背負った信治郎を見て、兄の喜蔵は弟の負けん気の強さと、愚痴ひとつ言わない性格に感心していた。


信治郎が米を届けると、小使いは涙を流し、信治郎に何度も頭を下げて礼を言った。信治郎はそれを見ていられず走り去った。母の教えた「隠徳」は子供の頃から彼の生涯を通じて続いた。


(ひとこと)
信治郎の父も母も、本当に「徳」の高い人だったと思います。「三つ子の魂百まで」と言いますが、ひとかどの人物になる人は、子供のころに大切なことを親から教わっていますね。


posted by 琥珀色 at 14:25| 琥珀の夢 家族 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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