2017年08月06日

琥珀の夢(391)進駐軍

「昨日まで『鬼畜米英』言うて、アメリカはんを鬼のように言うていたオヤジが・・・」
納得のいかない敬三に信治郎の声が聞こえた。

「敬三〜、敬三は〜ん。どこへ行きよったんや、あいつは」
敬三はゲストであふれている応接間に向かった。信治郎の隣に小林一三の姿があった。


敬三は揚げたばかりの大海老の天ぷらが山盛りになった大皿を渡され、進駐軍の将校に出すように言われた。

「敬三、ゲストはんのウイスキーがないで。早うしなはれ」
信治郎に命じられた敬三は愛想笑いをしながら将校の階級章を見た。


今日のゲストは進駐軍中部方面のトップと聞いていたが、その男は中部方面のトップだった。



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2017年07月16日

琥珀の夢(371) 吉太郎

信治郎はこの夜も、インドシナに向かう戦艦に乗る海軍士官の壮行会を南地の「大和屋」で催していた。

それは単なる海軍贔屓ではなく、彼らから正確な戦況の情報を得るという目的があった。


更に大切なことは、昨年あたりから物流統制が厳しくなり、大麦の入手が困難になり始めていたという事情であった。

将来の寿屋の宝であるウイスキーの仕込みを、1年でも途絶えさせることはできない。大麦の確保は寿屋の死活問題だった。


イギリス仕込みの、ウイスキー好きの海軍なら、ウイスキーの原材料を提供してくれるはずだと、信治郎は見ていた。

宴が終わり、ひと息ついた信治郎に電話が入った。吉太郎の具合が悪いという知らせだった。

posted by 琥珀色 at 10:28| 琥珀の夢 登場人物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月28日

琥珀の夢(323) 竹鶴政孝

マッサン登場!

信治郎はウィスキー造りにかかる費用の目算をしてみた。出てきた数字を見て大きくため息をついたが、すぐに思い直した。

「まだ何ひとつしてへんうちからタメ息なんぞ零(こぼ)してからに、福がにげてまうで」


後にも先にも信治郎が何度もため息を零したのはあの時だけだった、と後年クニが述懐している。

商品ができるまで5年、10年という時間を要するウイスキー作りを成功させるきっかけが、信治郎にはまだ見えていなかった。


信治郎は夜中に家を抜け出し、築港工場のある桟橋で自分の手を見つめた。「同じ人間の手や。わてのこの手でもでけるはずや・・・」

夜明けに店に戻ると、ロンドンから電報が入っていた。技師として招こうとしていたムーア博士の伝言を伝える、三井物産の中村副支店長からだった。


今、日本人でウイスキー造りを学んだ人物が帰国しているはずだ。彼に委せればさまざまな経費を節約できるはずだ、とあった。

竹鶴政孝、というその人物の名前には記憶があった。摂津醸造の社員で、ウイスキー造りの留学を終えての帰国だと記してあった。

posted by 琥珀色 at 09:49| 琥珀の夢 登場人物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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