2016年08月20日

琥珀の夢(50)薬は国を守る

信治郎は湯を沸かしながら特異な香りに気がついてそちらに目をやった。「これは麝香や・・・」儀助が話し始めた。

清國、蒙古、朝鮮に生息するジャコウジカの麝香腺から取り出したものを固めて乾燥させ、粉末にしたもので、鎮痛剤にも興奮剤にもなる。


そんな儀助の独白を、信治郎は一言も洩らさず聞きながら、それぞれの葉の色や形、そして何より匂いをかいで覚えようとした。

儀助は骨状のものを削りながら、時折削りとったものを鼻先で嗅いでいた。やはり匂いが大事なのだ、と信治郎は思った。


すでに2時間が過ぎていたが儀助は一度も作業を止めなかった。この気力が大事なのだと信治郎が思った時、儀助が言った。「薬言うもんは国を守ってんのや」

信治郎は儀助がそれを自分に言っているのに気がついた。「薬が、国を守ってんでっか」信治郎に儀助が大きくうなずいた。

(ひとこと)
緊迫感のある光景ですね。


ラベル: 琥珀の夢 麝香
posted by 琥珀色 at 12:28| 琥珀の夢 小説 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月08日

琥珀の夢(5)底力

ところで何を見ていた、と信治郎に問われた少年は、「この葡萄酒があんまり綺麗なんで、つい見惚れてもうて」とあわてて答えた。

すると信治郎は「そら嬉しいこっちゃ」と少年の顔を見つめながら言った。少年には、信治郎が何を喜んでいるのかわからなかった。


「坊には見どころがある」信治郎は続けた。お客が手にとってみたい、使ってみたいと思うことが商いの肝心の1つだと少年に教えた。

「ええもん作るためなら百日、二百日かかってもええんや」そうしてできた品物には底力がある。品物も、人も、底力だ。

そう言って信治郎は少年の頭をやさしくなでた。


大実業家の鳥井信治郎に「見どころがある」と認められた少年。ただ者ではありませんね。

posted by 琥珀色 at 04:22| 琥珀の夢 小説 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月07日

琥珀の夢(3)寿屋洋酒店

少年は寿屋洋酒店の前で荷積みをしている2人の店員に声をかけた。「ごめんやす、五代自転車商会だす。」

店員は忙しそうに「そこの脇に置いていき」と少年に指図すると、大八車を引いて行ってしまった。


少年は、高価な自転車をこんなところに置きっぱなしでいいのだろうかと心配になった。盗まれるかもしれないし、第一納品書も渡していない。

「すんまへん、すんまへん、どなたかいてはりまへんか」少年は店の奥に向かって大声を出したが、返答がない。


幸吉少年、まだ年端も行かないようですが、責任感の強さがわかりますね。

posted by 琥珀色 at 10:38| 琥珀の夢 小説 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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