2016年07月21日

琥珀の夢(20)人だかり

信治郎は、家の中でじっとしている子供ではなかった。こまに連れられて天神参りをする時なども、珍しいものを見るとすぐに体がそちらに行こうとして、こまにたしなめられた。

信治郎は6,7歳になると背は高くないものの頑強な体になっていた。しかし近所の子どもたちと喧嘩をしたり彼らに乱暴したりすることはなかった。


こまは、信治郎に商い人の心得を事あるごとに教えていた。小さい子や弱い子に手を挙げてはならない、どんな人にも腹を立てたり怒ったりせず頭をさげていること。

誰か困っている人や体の具合が悪い人がいたらすぐに近くの人に知らせること、そして人がたくさん集まっている所は危ないので近づかないこと。


信治郎は母に言われるときにはおとなしく聞いていたが、1人で歩いている時には人だかりや騒々しい所につい引かれてしまうのだった。

そして秋のある日、堺筋の方へ歩いて行くと人だかりがしていた。


(ひとこと)
昔の商人のしつけと言うのでしょうか。信治郎の母こまは、ふだんから繰り返し商人の心得を説いていたのですね。素直に聞きながら体が動いてしまう信治郎の姿を、伊集院静さんが見事に描いています。




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2016年07月10日

琥珀の夢(8)経営の神様

鳥井の銅像完成記念パーティーで挨拶を始めた松下幸之助のに、参列者の目が注がれた。松下の顔色は良く、彼がこの日のためによほどの準備をしてきたことが伝わってきた。

「私が鳥井信治郎さんと初めてお会いしたのは・・・」と始めたスピーチは、自転車を届けて偶然出会った鳥井に励まされ、頭を撫でられた日のことを克明に描いていた。


「信治郎さんの笑顔が、今も目に浮かびます」という幸之助のスピーチに、会場は水を打ったように聞き入った。

このスピーチを聞いたサントリー社長の佐治敬三はを大粒の涙を浮かべて感激し、幸之助の葬儀ではその棺を自ら抱えている。

「経営の神様」と言われた男が生涯その恩を忘れず、商いの師とした鳥井信治郎の人となりを知るには、明治の初期まで時間を戻さなければならない。


(ひとこと)
今回引用された松下幸之助のスピーチは、この小説の冒頭から描かれた話そのままです。一週間分の物語は、この一度のスピーチの記録からふくらませたものだったのですね。

次回から鳥井の生い立ちをたどることになります。さぞ波乱の人生だったのではないかと楽しみです。

posted by 琥珀色 at 02:17| 琥珀の夢 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年07月03日

琥珀の夢 小説

「琥珀の夢」は7月1日から日経新聞で連載が始まった伊集院静氏の小説です。「小説、鳥井信治郎と末裔(まつえい)」という副題がついています。

主人公は「サントリー」の創業者、の鳥井信治郎です。NHKの朝ドラ「マッサン」で堤真一さんが演じて大人気になった、あの鳥居社長ですね。


彼は本当にたくましい商魂と、「日本に洋酒文化を作る」という夢を持ち、信念に向かって突き進んだ大実業家です。

「琥珀の夢」ではその鳥井信治郎と、彼の志を受け継いだ人々の姿を描かれます。人気作家伊集院静氏にとって初めての「企業小説」であることも話題です。


では、これから一緒に「琥珀の夢」を楽しんで行きましょう!

posted by 琥珀色 at 12:52| 琥珀の夢 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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