すると信治郎は「そら嬉しいこっちゃ」と少年の顔を見つめながら言った。少年には、信治郎が何を喜んでいるのかわからなかった。
「坊には見どころがある」信治郎は続けた。お客が手にとってみたい、使ってみたいと思うことが商いの肝心の1つだと少年に教えた。
「ええもん作るためなら百日、二百日かかってもええんや」そうしてできた品物には底力がある。品物も、人も、底力だ。
そう言って信治郎は少年の頭をやさしくなでた。
大実業家の鳥井信治郎に「見どころがある」と認められた少年。ただ者ではありませんね。
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