2017年03月26日

琥珀の夢(262)クニ

「ところで大阪からの荷は届いてますやろか」
信治郎は主人への土産を別に送らせていた。

裏にあると言われが信治郎が荷を解きに立ち上がると、主人はクニという若い女性に手伝うように言った。


裏手に行くと、羽織が汚れるから自分がするというクニを制して、信治郎は自分で荷を開け、中から「赤玉」を取り出した。

「船に酔わなんだか」
と包装紙を優しくなでる信治郎を見て、クニがクスッと笑った。


自分の赤ちゃんみたいに話しかけて、というクニに信治郎は当然のように
「ほんまに、こら、わての子供なんですわ」
と答えて赤玉をクニに差し出した。

「名前が『赤玉』言うんですわ」
それを聞いたクニに「可愛い名前ですね」と言われて、信治郎は嬉しくなった。


(現在は「赤玉スイートワイン」という名前で販売されています。)
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posted by 琥珀色 at 22:48| 琥珀の夢 登場人物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月19日

琥珀の夢(254)寝ても覚めても

何かの力が、その人に発見なり、新しいものを見出させるのは、当人が寝ても覚めても、そのことと対峙し続けていたからだろう。

信治郎は作業場の扉に錠をかけさせて丸二日こもった。奉公人が心配して釣鐘町の喜蔵のところに相談に行った。


信治郎にはいつものことだ、と思いながら喜蔵は、しかし商談に来ている問屋を放ってはおけないと言って、明日にでも信治郎に話してみると言った。

喜蔵が翌朝家を出て、信治郎の裏木戸から入ると、「築港に行って朝飯までに帰る」と貼り紙があり、信治郎はいなかった。


喜蔵が築港に着くと、旧桟橋の突端に信治郎は立っていた。「信はん、おはようさん」喜蔵が声をかけると、振り向いた信治郎の目からは大粒の涙があふれていた。

posted by 琥珀色 at 11:23| 琥珀の夢 登場人物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月11日

琥珀の夢(247)看板

寿屋洋酒店の看板は今も数点残っている。
それは今でも十分通用する素材とデザインだ。

「大将、このくらいでかんにんしたってもらえまへんか」

木工屋の職人は本当に泣きそうだったと、後に語っている。


それほど信治郎の第一号の看板へのこだわりはすさまじかった。
しかしそのおかげで、職人にはあれと同じ看板をという注文が一気に増えた。


もっとも、信治郎が費やした資材、染料、手間賃を聞いて皆あきらめたそうだが。


posted by 琥珀色 at 09:49| 日本経済新聞 琥珀の夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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