2016年09月30日

琥珀の夢(90)商人

信治郎は儀助の奉公時代の話をじっと聞いていた。儀助が背中に傷を負ったのは、店が川の私の船賃を出さなかったせいではなかったと、儀助は言った。

少し遠回りをすれば浅瀬を渡れる段取りだったのに、儀助が配達を手間取ったため急ごうと思って判断を誤ったのだった。

儀助は、背中の傷は商人としての大切なことを教えてくれたと言うのだった、信治郎は胸の中で手を合わせ、いい話を聞かせてくれたと儀助に感謝した。


儀助はそこで話を終えて仕事に戻り、その夜の夜鍋は早く終わった。作業場の鍵をかける儀助の背中に向かって信治郎は言った。

「旦那さん、今夜はええお話しを聞かせていただいて、ありがとさんだす。今夜のお話をわて一生忘れんようにして気張ります」


部屋に戻っても信治郎はすぐに寝付けなかった。「わてはまだまだ甘いわ」信治郎は布団の中で唇をかんだ。

(ひとこと)
後の大経営者、鳥井信治郎の商人としての原点になる体験だったのかもしれませんね。



posted by 琥珀色 at 21:43| 琥珀の夢 物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月29日

琥珀の夢(89)奉公

傷のことを聞かれが信治郎が「すべって転んでもうて・・・」と答えると、儀助は、足元を見ないで歩いているようでは一人前の商人になれないと言った。

「す、すんまへん」あわてて謝る信治郎に儀助は、すぐ謝るのもだめだと言って奉公人の心得を話し始めた。

奉公とは仕事を覚えることだが、それは店のためだけでなく自分のためでもある。だから奉公は厳しいのだ、と儀助は話した。


儀助は茶を飲みながら、自分の奉公時代の話を始めた。自分には帰るところがなかった。飯を食べさせてもらえて仕事を覚えられるだけで十分だった。

「ど突かれようが、蹴られようが、それで十分やった」信治郎は聞きながら、旦那は自分の額の傷の理由を知っているのではないかと思った。


儀助は、信治郎がさっき見た自分の背中の傷のことを話し始めた。彦根の奉公先で薬を配る時に、水かさの増した川を無理に渡ろうとして流され、流木に上半身がはさまれたと言う。

(ひとこと)
現在のスリーボンドの創業者、小西儀助の話が続きます。興味深いですね。




posted by 琥珀色 at 10:36| 琥珀の夢 登場人物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月28日

琥珀の夢(88)額の傷

小西儀助が、信治郎の待つ2階の作業場に現れた。信治郎が頭を下げ、顔を上げると儀助が一瞬、信治郎の顔を見た。

儀助は持ってきた紙包みを開け、信治郎にすり鉢とすりこぎを持ってくるように命じた。儀助は手袋をして、包みの中身を鉢の中に移した。


それは乾かした芋の中身だと言って、儀助は芋の繊維を崩さないようにそれを糸くらいにほぐすように信治郎に言った。

丁寧にやれ、と言って儀助は隣で本を読み始めた。思ったより難しい仕事で、1時間たっても半分も進んでいなかった。


儀助が新吉に、下で濃い茶を入れさせて持ってくるようにと言った。信治郎はトメとマキに頼み、信治郎は茶が注がれた椀と急須を持って2階に戻った。

「トメが入れる茶は美味いな」茶をゆっくり飲んだ儀助が言った。トメは宇治の近在で育ち、子供のころ茶摘みをしたと聞いてトメを雇ったのだった。

「ところで新吉、おまえ、その額の傷、どないしたんや?」儀助が尋ねた。

(ひとこと)
前回描かれた夜鍋以来、信治郎は儀助に信頼されているようですね。しかし信治郎の額の傷は、誰の目にもかなり目立つのでしょう。

posted by 琥珀色 at 10:09| 琥珀の夢 あらすじ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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