2017年07月16日

琥珀の夢(371) 吉太郎

信治郎はこの夜も、インドシナに向かう戦艦に乗る海軍士官の壮行会を南地の「大和屋」で催していた。

それは単なる海軍贔屓ではなく、彼らから正確な戦況の情報を得るという目的があった。


更に大切なことは、昨年あたりから物流統制が厳しくなり、大麦の入手が困難になり始めていたという事情であった。

将来の寿屋の宝であるウイスキーの仕込みを、1年でも途絶えさせることはできない。大麦の確保は寿屋の死活問題だった。


イギリス仕込みの、ウイスキー好きの海軍なら、ウイスキーの原材料を提供してくれるはずだと、信治郎は見ていた。

宴が終わり、ひと息ついた信治郎に電話が入った。吉太郎の具合が悪いという知らせだった。

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2017年07月15日

琥珀の夢(370) 国家総動員

1939(昭和14)年9月、ドイツのポーランド侵攻をきっかけに英仏がドイツに宣戦布告し、第2次大戦が始まった。

この影響を受けて、2年前から始まっていた日中戦争で優勢だった日本に対し、アメリカとイギリスが中国からの撤退を要求した。


世界の中で孤立しつつあった日本は、アジア諸国をヨーロッパ列国から独立させて、国家連合を作る方向に進み始めた。

そのために日本は国内では国家総動員法などを制定し、戦時体制の統制経済政策が始まったが、信治郎は進んでこれに協力した。

特に海軍への協力を惜しまなかった信治郎は、公定価格になっても「赤玉」やウイスキーの納入を増やしていた。

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2017年07月01日

琥珀の夢(170)小樽へ

出航の朝、信治郎はホテルから家族に絵葉書を出した。小樽まで仕入先の見分に行って参ります、と書かれたはがきを見て、驚いた母のこまが喜蔵を呼んだ。

「信はん、小樽へ行くそうやで」
「小樽って、あの北海道の小樽でっか?」


喜蔵も初耳の話だった。絵葉書には豪華客船の写真が印刷してあった。まさかこの船に乗って小樽へ、というこまに、それは無理だと喜蔵は言った。

こんな豪勢な船に信治郎が乗れるはずがないと聞いて、こまは安心した。しかし喜蔵は気がついていた。

写真の客船「三池丸」の一等デッキでシャンパン片手に海を眺めている男は、たしかに信治郎だった。


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